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2017年7月13日、東京の蒲田にて新しいゲームのテストプレイを実施しました。新作ゲームの目的は「いじめ問題を考える」こと。ビジネスゲームではない内容へのチャレンジですが、手応え充分な内容になりました。

いじめ問題を考える「ダンデリオン」のご紹介

2017080502ダンデリオンは「タンポポ」の意味で、私が制作を構想したときに閃いたイメージから名付けました。これは後に登場しますので、そのときに解説します。特に踏まれても強く育つというような意味は込めていませんので誤解なきようお願いします。

ダンデリオンは参加者が4つの役割いずれかを担当し、小学校2年生から6年生までを約1時間で体験していただきます。その4つの役割とは以下のとおりです。

アタッカー(攻撃的な性格)
ディフェンダー(守備的な性格)
バイスタンダー(傍観者)
チャージャー(場を仕切るリーダー)

2017080503これらの名称自体は、次回開催時の変更が確定していますが、今回のレポートではこの呼び方で実施しています。この4つの役割は、それぞれに勝利条件と敗北条件があり、勝つために無邪気に遊んでいただきます。

ゲームが始まると以下のような流れで進行します。

  1. チャージャーが場をリードした話し合い(7分間)
  2. 放課後の自由時間(3分間)
  3. 各自投票
  4. ポイントの移動
  5. チャージャーの不信任投票

図の投票用紙で投票を行い、できることは「誰かを攻撃する」「誰かの攻撃をサポートする」「誰かとグループになる」の3つです。ルール自体は直感的に分かる内容ですので、年齢問わずプレイすることができます。

ダンデリオンが生まれた背景

常々いじめ問題に興味があった私は、今のこの仕事をし始めた段階から、いつかいじめを考えるゲームが作りたいと思っていました。昨年7月に行われた山梨でのインパルスゲートの打ち上げで、円城寺さんと話したときに制作を決意します。甲府市の昭和町にある「ヤキトンともちゃん」での出来事でした。

ゲームのシステムは随分前から固まっていたのだが…

その後、昨年9月に第一回テストプレイが行われると、マイナーバージョン変更を繰り返し数回のテストプレイを実施しました。その結果、思ったのです。

「これ、いじめを助長するゲームだ」

プレイヤーは楽しそう、でも何度やってもいじめ助長。つまり単なるパーティゲームでしかなかったのです。ここから数ヶ月間開発が行き詰まることになります。でも、どうしても完成させたかった私はずっとどこか心の中でモヤモヤしていたのを今でも覚えています。

ある日、友人である小林彰さんのブログ投稿で「大森地区小学校PTA連絡協議会」主催のいじめ問題を考える講演の記事を見かけました。

そうか…私はホライズンのゲーム開発ポリシーを忘れていたのか

私はこのダンデリオンを一人で作ろうとしていました。いじめの現場が身近でないにも関わらず。だから良い物が出来なくて当たり前です。私はすぐに小林彰さんに連絡を取り、この講演会に何とか参加させていただくことになりました。

その時の講師が阿部泰尚さんです。

阿部さんとの出会い

実は阿部さんは前回のテストプレイにご参加いただいています。その時はゲームの出来に満足できず、深く話せませんでした。いろいろな想いを胸に阿部さんの講演を拝聴すると正に目からウロコ。私が考えていたいじめの構図が完全に間違っていたことを思い知らされます。

すぐさま、阿部さんにダンデリオンの共同開発を申し出、ご快諾いただきました。その後、数回の打ち合わせを経て、ダンデリオンが本当の意味で誕生しました。

阿部さんを少しご紹介すると

阿部さんのプロフィールを掲載しますので、以下ご覧ください。

2017080504阿部泰尚(あべひろたか)

1977年、東京都中央区生まれ、東海大学卒業、T.I.U.総合探偵社 代表、NPO法人ユース・ガーディアン代表理事。日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー。教員免許あり(社会科)。

国内唯一の長期探偵専門教育を実施するT.I.U.探偵養成学校の主任講師・校長も務める。セクハラ・パワハラや詐欺の被害者が被害の証拠を残すため行う当事者録音の技術において国内随一の技術を誇り、NHK「クローズアップ現代」などで取り上げられる。2004年に、探偵として初めて子供の「いじめ調査」を受件し、解決に導く。

以降5000人以上(2015年12月現在)の相談を受け、重大な問題があり、関係各所が動きが取れない状態であった330件(2015年12月現在)に上るいじめ案件を手がけ収束・解決に導き、今も精力的に「いじめ問題」に取り組む。いじめの実態の最も近い第三者として、朝日新聞、毎日新聞はじめ多くのメディアから「いじめ問題」に関する取材を受け、積極的に発言している。

詳しいプロフィールはこちらです。

私立探偵の方の知り合いが今までいなかったので、最初はどんな感じなのかドキドキしていましたが、事務所に行くたび、ついつい長居してしまうんですよね。お話も面白いし、いじめに対する熱意も実績も素晴らしい。私が尊敬する人物の一人です。

ダンデリオンの可能性と限界

「いじめ問題を楽しくゲームで学ぼうとするのはおかしい」

幸いにもこういうお言葉はまだいただいていませんが、いずれありそうなので、申し上げておきたいと思います。

根本的に「信念を持っていじめをする子どもはいない」と私は考えています。からかいの延長だったり、攻撃する意味は特になかったり、嫉妬や目立つから、あるいは弱者が見せる苦痛の表情によって心理的報酬を得たいなど、いじめのきっかけも継続する理由もそこに「信念」はありません。

だからこそ、気軽な気持ちで攻撃し、されてしまう状況を体験することがいじめ問題を考える第一歩だと考え、ダンデリオンを開発しています。

ただ、現時点でダンデリオンが持つであろう最大のメリットは「いじめの予防」です。まだいじめ問題が発生していない年代や、出始めの段階にはとても効果があると考えています。

しかし、既にいじめが表面化していて、たとえばクラスに明らかな序列がある状況下でダンデリオンは恐らく機能しないでしょう。なぜなら、こういったメンバーでダンデリオンをしてもいじめの構図がリプレイされるだけになり、いじめられっ子が更に辛い目に会うのが目に見えているからです。

ダンデリオンを改良するのか、ダンデリオンは予防ツールとし、新たなものを開発するかは私たちの今後の課題といえるでしょう。

ダンデリオンスタート「ごあいさつ」

2017年7月13日14時。場所は大田区にあるbizBEACH CoWorking。いよいよダンデリオンの最終テストプレイが始まります。

今回は12名の方にご参加いただきました。いじめ問題に関心がある方から、ゲーム好きの方までさまざまです。阿部さんのごあいさつの中にあった「いじめが少ない学校では子どもたちが主体的に問題に取り組んでいる」という箇所、ここがダンデリオンというゲームを通じて子どもたちがシミュレーションできる部分になります。

これは言い換えれば、大人が体験すれば「いじめの環境に置かれている子どもの気持ちになれる」ことを意味しています。ふりかえり部分は異なれど、大人も子どもも同じルールのゲームをしてもらうことが今回のプロジェクトでは重要だと考えています。

ルール説明とダンデリオンスタート

ダンデリオンのルール自体はこのテストプレイ後に改良し、正味20分ほどで終了する簡単な内容です。ルール説明後、すぐにゲームに入りました。

全員にカードをランダムで配布し、以下の4つの役割が割り当てられます。

アタッカー(攻撃的な性格)
ディフェンダー(守備的な性格)
バイスタンダー(傍観者)
チャージャー(場を仕切るリーダー)

この4つの役割の中で、特徴的なのはチャージャーです。イメージとしては担任の先生で、他のプレイヤーから攻撃はされませんが、多数決により不信任案が続いてしまうとゲームからドロップアウトしてしまいます。他のプレイヤーの話し合いをコントロールする役割があります。

また、全ての役割に勝利条件があり、自分が勝つために攻撃しなければならないシチュエーションがあったり、誰かを出し抜くということが比較的気軽に出来てしまうのがダンデリオンの特徴なのかもしれません。

誰かに注意する過程上で叩いてしまったとして、相手が嫌な思いをしたら「いじめ」になるという現在の考え方に基づけば、いじめるつもりがなくても当事者になりますので、その点はダンデリオンとマッチしているのではないかと考えています。

2017080505また、特筆すべきは投票の開示です。

誰が誰を攻撃したか、誰がグループなのかなどが図になってプレイヤーに開示されクラスの相関図が見える化するフェイズでは全員が興味津々でテーブルに集合します。

図でいえば、青いエリアはグループが成立し、該当プレイヤーがポイントをゲットでき、赤いエリアは攻撃が成立しているために攻撃されたプレイヤーはポイントを奪われてしまいます。

小学3年生のいじめ

ダンデリオンは10分間の話し合いの後に投票し、ポイントの獲得または移動を5セット行うゲームです。小学2年生から始まり、卒業までをイメージしています。

前のセット(小学2年生)では、仲良しグループが3つと1人を集中して攻撃する人が3人いました。そして、1年経つと皆さんの状況も変わってきます。

徐々に社会性が身に付き、人間関係が対話によって構築されていきます。実際のいじめの現場でもこの頃からグループが形成され、暴力や物隠し、物汚し、物壊しなどが発生していきます。

でも、残念ながら、その攻撃に明確な理由も目的もありません。「グループで攻撃すると楽しいから」「グループだと強く見えるから」ダンデリオンでも同じ現象が発生します。

2つのいじめグループが各々を攻撃するという結果に。ちょうど残り3セットの覇権を争うかのような構図ですね。

また、前セットでいじめられっ子ポジションだったカズさんが今度はイジメグループの最大勢力の実行犯として反撃をしています。これも現実と同じで、小学校の低学年は身体や精神の育成によってコロコロとポジションが変わるものです。

仲良しグループも3つから1つになってしまい、人間関係としてはクラスの大半のメンバーがいじめに加担している状況になってしまいました。

ダンデリオン後半戦

設定上の小学4年生に入りました。残り3年で卒業です。現実でもこの頃になると「仲間はずれ」「からかい」「軽く叩く・蹴る」という行為によるいじめがピークになっています。

大人だけのいじめ体験はどのような結末を迎えるのでしょうか。ゲーム終了までのダイジェストをご覧ください。

2017080506特筆すべきは小学4年生時の投票によるクラスの相関図です。

右の図の赤いエリアのところは「一人の攻撃者に対して5名がサポートし、たった一人を攻撃する」という様子です。

集団イジメにあった人は、これまでずっとクラスの中で「いじめっ子」ポジションで君臨してきたのですが、傍観者たちの団結によって、一気にゲームからドロップアウトさせられてしまいました。

しかし、ダンデリオンはいじめっ子を駆逐するゲームではありませんので、いじめっ子ポジションがゲームからドロップアウトすると、傍観者の中から次のいじめっ子が選ばれるという仕組みになっていて、これも現実に則しています。

4年生でいじめっ子がドロップアウトし、5年生で今度はいじめられっ子の方がドロップアウトしてしまうと、参加者は考えるわけです。

「このゲーム、これでいいの?」って。

攻撃されたから、裏で根回しして大人数で仕返しして、精神や体力を削って大人しくさせる。「仲間になろうよ」と近づいておきながら裏切っていじめっ子と内通する。勢いのある人に乗っかって自分の意志を表現しない。

この結果、2人の生徒がゲームから退場し、担任役もその責任を取ってドロップアウトしてしまう結果になります。

「もっと他にやれることがあったのではないか?」

小学6年生の頃、クラスの一部ではこういう気持ちの人が増え始めます。そこからは、ダンデリオンの投票システムの意味が若干変わってきます。

「攻撃」「サポート」「グループ」というダンデリオン上の活動手段はこれまで、自分のポイントを増やし、また奪われないようにするための防衛手段でした。わかりやすくいうなら、「攻撃されないためにいつでも攻撃できる準備」という意味です。

しかし、今回のケースだと、「まだ退場せずに残っている人の中で一人でも勝てる人を増やそう!」というクラスの目標が生徒の中だけで生まれました。

そこに賛同する生徒が大多数となると、「攻撃」「サポート」「グループ」はいじめの手段から目標を達成するための行動へと変わります。そして、自分のポイントの増減よりも大切なものが見つかることで、スタート直後に感じた「誰から攻撃されるかわからない恐怖」から開放されることになります。

ふりかえり

今回はテストプレイということもあり、ワークは行わず、阿部さんにいじめの構造を解説していただきました。

過去、ダンデリオンの開発をすすめる上で、いろいろな参考文献やインターネットでの解説を閲覧してきました。恥ずかしながら、その影響を受けすぎてしまい、いじめっ子といじめられっ子の関係性だけを考えていたために全く上手くいきませんでした。

この阿部さんの話を聞いたことによって私は今までのダンデリオンの誤りに気付かされました。傍観者も先生もいじめ問題においては脇役ではなく主役だということです。

そして、いじめ問題は学校生活のメインイベントではありません。クラス内の力関係を均衡化させることが善ではなく、いろいろな個性を持った子どもたちがクラスに居て、そこで何をするのか?

この部分の回答が導き出されないときに起こる許しがたい問題こそがいじめだと今は考えています。

参加者さまの感想

参加者の皆さまからさまざまな感想をいただきました。いじめ問題における核心を突くような内容もあり、運営側としてとてもうれしく思っています。

  • ルールが理解できないと打つ手が限られる、自主性が持てない
  • 多数決のルールでいじめの当事者が簡単に入れ替わる
  • ゲーム後、実際の例を挙げて話し合いをしたい
  • いじめをなくさなければならないことと今の子は思っていないんじゃないか
  • 最後に全員勝利という目標ができ、クラスがまとまったのが印象的だった
  • 攻撃されるのが怖いから誰かを攻撃したり、サポートしたり、グループを作っていた
  • 全員が「自分の身を守る」延長線上にいじめがあるのだとしたらとても怖いこと
  • 脱落者はどんな気持ちだったか聞きたい。勝利者に達成感があるのか聞きたい

おわりに

ビジネスゲームを作ってきた私が、企業だけではなくビジネスとは無縁の組織や集団向けにゲームを作って貢献することができるのか?という気持ちがダンデリオンの出発点です。

私自身がふりかえってみて、とても意義あるゲームが出来たと思っています。本来はこの後に阿部さんのもっと詳しい講義とディスカッションを含んだワークをする予定です。

これにより、子どもたちにはいじめ問題を包括したクラスでの取り組みについて深く考えていただこうと考えています。

ダンデリオンのルールはこの後のご指摘を踏まえて若干変更し、現在は最終版が完成しています。今後も内容を精査し、ひとりでも悲しい思いをする子どもが減ることを目指して取り組んで参ります。

最後になりましたが、今回ご参加の皆さま本当にありがとうございました。皆さまのご参加とご指摘が、いじめ問題が明るい方向へ進ませたと思っていただけるよう尽力していきます。


2017/08/09

いじめ問題を考える【ダンデリオン】研修レポート